前回は晴に焦点が当たっていた本作。今回は、浪の人間としての葛藤や成長がガッツリと描かれていきます。
浪はなぜ絵を描いているのか?なぜ榀子のことが好きなのか?そして浪と榀子の心の中に居続ける亡き兄との関係は……そんな奥深い話が展開される第4話、見ていきましょう!
※アイキャッチ画像ならびに本文中の画像は、©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会様公式HPより引用しています。
榀子のことも美術のこともうまくいかない……もがく浪
第4話のストーリーまとめ!
季節は進み、夏。浪は熱心にキャンバスに向かっています。ここは美術の予備校。以前もちょっとだけ描かれましたが、彼は上京して美術大学に入学するため、予備校通いをしていました。
しかし、周囲の生徒はさまざまなテクニックを持っていてレベルが高い。周囲とのレベルの差に浪は焦ります。友人からは上手いだけなら1年頑張れば誰でも描けると慰められますが、上手い人に慰められてかえって落ち込むもの……。
そんな気持ちを引きずりながら帰宅すると、家には榀子がいました。実家から野菜を大量にもらったのでおすそ分けandお料理、ということのようです。榀子の訪問に素直に喜ぶ浪。
浪は回想します。彼は小学生のときから絵が上手でした。亡くなった兄、湧は勉強ができたようですが、そんな兄に勝てる唯一のものが絵だったのです。できが良いけど病弱で、そのため周囲のサポートを受けてきた湧。幼い浪にとって、兄がいつもみんなの中心にいる……そんな気持ちだったのです。
兄よりも周囲の目を引くことができる、みんなが自分を認めてくれる……浪にとって絵はそういう道具でもありました。
皿を洗いながら、お盆休みの話になる浪と榀子。浪の話し方が、湧に似ていると榀子はつぶやきます。
しかし、これが浪の癇に障りました。榀子はいつまでも浪を通して湧のことばかり見ている。榀子が死んだ人間のことばかり見ているのも嫌だけど、他人のことを見るのも嫌だ……兄の代わりではなく、自分のことを見てくれと、遠回しながら榀子に好意を伝えました。
ですが榀子は目をそむけました。浪のことは弟としか思えない、と、浪にとって1番言われたくないことを言われてしまいます。これには浪もエキサイトしてしまい、病弱だった兄の湧への思いは、同情と愛情を錯覚しているだけじゃないのかと大きな声を出します。
しかし榀子は冷静に、錯覚ではないと答えます。そしてそんなことを言うのは浪らしくない、とも。浪はそれ以上なにも言えませんでした。
予備校の夏期講習が始まります。レベルの高い授業や周囲の生徒たちに焦りを覚える浪。そんな彼はなにを思ったか、陸生のバイトするコンビニに立ち寄ります。もっとも、陸生に会えば憎まれ口しか叩きませんが……。
そこに晴登場!数度ニアミスしていた2人ですが、やっとお互いを認識します。しかも晴が陸生のことを好きと知って、榀子のことは保険なのかと呆れ顔を見せます。それに過敏反応した陸生。断じて違う、と陸生が必死に否定すれば、晴はひどいと言い返し……ですが陸生は木ノ下から仕事を手伝えとバックヤードに引きずり込まれ、会話はここで終わってしまいます。
晴と共に帰路につく浪。榀子がモテモテだと膨れる晴に対し、浪は全然相手にされてない、とつぶやきました。それを知った晴は浪を励まします。浪と榀子がくっつけば自分が陸生と付き合える、と。しかし浪にとって晴は、いきなり大声を出したりカラスを手なづけていたりと、変なヤツだという印象しかありません。
お盆休みに入り、1人予備校に通う浪。しかし榀子は金沢に帰る前にカレーを作り置きしてくれていました。浪は美味しそうにそれを頬張りつつ、榀子と実家のことを考えます。榀子は兄の湧がいない現実から目をそらしたかったから東京に出てきた。でもこのタイミングで帰省する意味は……。
一方、帰省した榀子は、浪の父から湧の形見を見せられます。空き家になったこの家を貸そうとしている父。そうしたきっかけがないと自分も榀子も、湧が死んだことから前に進めない……そんなことをつぶやきます。
形見の中から、消しゴムを見つけた榀子。かつて、自分が消しゴムを忘れ試験中に困った際、湧が投げつけてくれたその消しゴムを見て、榀子は湧が庭に立っている幻影を見ました。ですがそれは幻影で……それに気づいた榀子は、目から涙を落とします。
榀子の気持ちを再確認した浪。しかしそれでも彼は諦めません。必死に美術の予備校の授業に食らいつきます。そうして頑張ることで、浪はやっと人生のスタートラインに立てた実感を持てました。
第4話はここで終わります。
浪と榀子、そして陸生。セリフから探る三者三様
第4話の名ゼリフ・迷ゼリフ!
同情と愛情を混同していなかったっていい切れるのか!(浪)
ストーリー解説パートでも触れたこのセリフ、とても強い言葉で印象に残ったのでここでも取り上げます。
このセリフの直前、榀子は浪が自分のことを好きなのは、幼馴染でよく知っているという錯覚から来ているんだと言っています。榀子の中で、浪はいつまでも湧の弟という位置づけ。浪もそのことは知っていたでしょうが、言葉にされることで改めて個人として、男性としての自分が否定されたとなって、ショックを受けてこの強いセリフで言い返してしまいます。
榀子はこの浪の言葉に対し、冷静に違うと答えています。そのことを考えた、と一言だけ言っている榀子ですが、きっとそれは、彼女の中で何回も何回も、繰り返し浮かび上がってくる疑問だったのでしょう。そんなことをいつも考えていたとしたら……榀子の心の喪失感が想像できます。
これは想像ですが……榀子がこの疑問にたどり着いたのは湧の死後かもしれません。湧が亡くなったのは17歳のとき。10代の榀子にとって、難しいことを考えるより眼の前で衰えていく湧のことが必死だったのではないでしょうか。
そして湧が亡くなり、気持ちが落ち着いた後に心に空白ができた榀子が、自分の想いは果たして愛情だったのか、それとも同情だったのか……と考える。
もしもそうだとしたら、本人がいない中でそんな答えのない問いかけを考える榀子の心中は、ものすごい苦しみだったのではないか、と思わずにいられません。
ライバルじゃねぇし!(陸生・浪)
晴がライバルだ、と言った2人が、同時に否定するこのセリフ。思わず笑ってしまうほどのハモりです。
陸生と浪は、榀子が好きという点で同じ者同士です。さらに、その榀子に振られたにも関わらず好きでい続けるという点も。そんな同じ者同士だからこそ出てきたハモり?なのかもしれません。
同じ人のことを好きな相手をどう思うか?これはホント人それぞれかと思います。単純にライバルだし嫌いだ、という人もいる一方、同じ価値観を持っているという意味で「お前分かってるじゃん」的な共感をもつ場合もある、かも?
現に浪は、勉強や榀子のことでちょっと行き詰まった際、敢えて陸生のいるコンビニに足を運んでいます。本当に嫌いだったらこれはやらないですよね。
浪と陸生の関係についてここで少し考えてみましょう。現時点では浪が陸生に一方的に絡んでいくけど、陸生は浪を大人の余裕で相手にしない、という態度を取っています。しかし、ちょっと挑発されるとすぐにムキになるところを見ると、大人の余裕を貫けてない……?(笑)この辺がまた陸生の魅力ですのでいいんですが!
それにしても、2人の男子を諦めさせずに好きでい続けさせるって、榀子ってものすごく魅力的なんですね。晴ちゃんがヤキモチ焼くのも分かるわ~。榀子の魅力については、また別の話で取り上げられたら取り上げたいです。
不安と逡巡、本気になってようやく人生の入口に立った気がした(浪)
第4話の最後の最後、浪が心の中でつぶやいたセリフです。とても力強く、印象に残るセリフでした。
このセリフはそのまま第4話の過程と結末を現しているように感じるので、考察パートでじっくり考えていきましょう。
自我を持った青年、早川浪の誕生物語
なぜ浪は榀子が好きなのか?2つの理由を検討
第4話はここまであまり登場しなかった浪をじっくりと描いた話となりました。今回は彼についてじっくり見ていきましょう。
彼は榀子のことが好きです。それは第2話からずっと分かっていましたが、なぜ浪は榀子のことが好きなのか?もちろん榀子が魅力的な女性であることは間違いないのですが、どうもそれだけではなさそうです。
1つ目の理由として、幼馴染であること。浪と榀子は、実家が隣同士ということで長い付き合いがあります。また、浪が幼くして母を亡くしていることや湧が病弱であったことから、榀子は頻繁に早川家に通って面倒を見てくれました。そうした付き合った時間の長さをして浪が榀子を好きになっていきます。
が、ちょっと思ったのが、2人の年の差。2人は6歳離れています。子供のときの6歳差って相当大きくて、大人に感じるものだと思うのですよね。そしてそういう相手を異性として好きになるかというと、(もちろんいろいろな感覚があるでしょうが)個人的な感覚としてはあまりないのかなと思ったりします。そもそも子供のときは、異性としての好きという気持ちがなかなかわからないものですし。
となると、浪の「好き」は、姉や母親に対する憧れのような「好き」が多分に混ざっているのかもしれないな、と思いました。男子は誰でも甘えさせてくれる女子が好きですからね……ってなんか自分の好みをダダ漏れしてる気がしないでもないこと書いてけどいいのか?(爆)まぁともかく、榀子の「錯覚」発言はそうしたところも指摘しているのかも、と考えるととても興味深いです。
早川浪という個人への目覚めが描かれた第4話
2つ目の理由として、湧に対する対抗心のようなものも見え隠れした、ということが第4話の話の中で分かります。優秀ながら病弱だった湧のことを周囲は心配し、気にかけ、世話をした。そのような状況では、元気で普通に暮らしている浪に対してはどうしても関心が薄くなりがち。
子供にとって、自分への関心が薄いというのはとても苦しいものです。でも浪にとって幸いだったのは、彼には絵の才能があったこと。絵を描くことで周囲が自分へ関心を向けてくれる。そう、兄よりも。そう知った彼は、絵を描き続けて18歳まで来ました。
第4話の中で、浪は湧のことを「いつも周囲の人間の中心だった」と言っています。この「周囲の人間」をそのまま榀子と言い換えると……?浪は湧より、榀子に関心を持ってもらいたいと思っていたといえるのです。こうしたちょっと子供っぽい対抗意識や承認欲求が、そのまま榀子への恋愛感情に繋がったと考えることができます。
しかし、榀子との言い争いの中で浪はそうした気持ちを榀子自身によって打ち砕かれます。また、得意だったはずの絵も、レベルが高い東京の高校生たちに及ばない。そして榀子には、陸生というライバルがいる。なにより、彼はもう18歳で大人の入口に立っています。いつまでも湧と比べてどう、と思っても……と本人自身も考えていたことでしょう。
そんな最中、榀子が実家に戻った意味を考えた。榀子は湧の死、湧がいないという現実と向き合おうとしている。であれば、自分ももっと頑張らないと……そこから出てきた言葉が「一度振られたぐらいで諦められっか!」であり、「不安と逡巡、本気になってようやく人生の入口に立った気がした」だったのです。
絵のことも、榀子のことも、湧と比べてどう、ということをずっと考えていた浪。しかしもがき、苦しむ中で、諸々を自分のこととして受け止め、前に進む。早川浪個人として、なにをしたいのか、誰が好きなのかをはっきり意識していく。
周囲の影響を強く受けていた少年が、自我を持った青年になっていく。
そんな過程が凝縮されたのがこの第4話ではないでしょうか!
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