「本好きの下剋上」 21話 22話 感想 ~ とうとう本が完成!マイン、自らの夢を引き寄せる

©香月美夜・TOブックス/本好きの下剋上製作委員会

同人誌の方をやってた関係で少し遅くなってしまいました。本好きの下剋上も2話連続レビューします。

ここのところ物語が本からちょっと外れていましたが、この第21話、第22話ではその本づくりの話題がにわかに復活します。そのきっかけは、身近で意外なところから……では見ていきましょう!

※アイキャッチ画像ならびに本文中の画像は、©香月美夜・TOブックス/本好きの下剋上製作委員会様公式HPより引用しています。

赤ちゃんのため絵本作りを決意!2年間の集大成がここに……!

第21話、第22話のストーリーまとめ!

具合の悪そうにしている母……その理由はつわり。なんとマインに弟か妹ができることになりました!マインは喜び、その子のために絵本作りをしようと決意します!

が、そもそも絵本ってなんだ?とフェルディナンドら関係者から総ツッコミを受けます。そりゃそうです、この世界では本自体高価で希少なものなのに、子供に向けた本などあるわけないのですから……。

ところがフェルディナンドからは意外なことを言われます。家族が増えるのは、家族を大切にするマインにとって弱点になる。最近あまり出てきてない神殿長ですが、マインに家族が増えたことを知れば、良からぬ動きをするかもしれないと考えた模様。

フェルディナンド、見事な楽器と歌声を披露!お堅い官僚然とした彼ですが、この世界の貴族の教養もしっかり持ち合わせています。
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フェルディナンドはそれに対応するため、貴族らしい振る舞いや言動、そして教養を身につけるようにとマインに言います。その教養とは音楽。この世界の貴族世界では音楽が教養として評価されるようです。今後、マインが貴族社会に深く関わっていくことを予想しているフェルディナンドは、自衛のために教養が必要だと考えているのです。彼の親心を、マインはめんどくさがりつつも絵本を作るためには仕方ないかと受け入れます。

ということで、マインは絵が得意なヴィルマ、音楽が得意なロジーナを新たに側仕えにすることとなりました。ただ、このロジーナがなかなかの曲者……灰色巫女にもかかわらず、同じ灰色神官であるフランたちに指示をしたり、音楽以外の仕事をしないと公言したり。デリアやギルは大いに不満を漏らします。

その理由は彼女の前の主にありました。前の主、青色巫女のクリスティーネは芸術を好み、音楽が得意なロジーナを優遇していたのです。しかしここはチーム・マイン。側仕えが側仕えに命令するのはダメだし、音楽以外の仕事をしなければ交代すると毅然と伝えました。ロジーナも観念し、マインの言うことを飲みます。

そしてマインはロジーナから音楽を教わり、フェルディナンドも納得の腕前になりました。こうして絵本作りをしても問題ない環境を作り出し、第7話は終了します。

乱暴なオオカミに、可愛らしい子豚が知恵を使って立ち向かうのが「3匹の子豚」の醍醐味。しかし子豚もオオカミも知らない孤児たちは、盛り上がりポイントが分からず「?」の表情。
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第8話、マインは本格的に絵本作りに取り組みます。その題材ですが、マインは3匹の子豚をテーマにしようとしました。絵本の鉄板とも言えるテーマですが、孤児たちの反応はイマイチ。子豚もオオカミも分からないのでは仕方ないですね……マインは方向転換し、聖典をテーマとすることにしました。

さらに、本制作の手法として版画を利用することにします。しかし問題はインク。この世界では紙同様インクも高価なもの。簡単には量を確保できません。となればススから自作するしかない!とマインのDIY魂が炸裂。マインやルッツ、それに灰色神官も巻き込んで掃除を開始し、ススを確保しにかかります。

ヴィルマの絵も出来上がり、さあ印刷!ところが、いざ紙に写してみたらクオリティが低め……どうしたものか、とマインは思案します。

一方、ヴィルマにも問題発生。子供がなにげなく腕を引いた際、恐怖で体が固まってしまいました。依然青色神官に騙され、危ない目に遭わされそうになったヴィルマは男性に対し恐怖心を持っていたのです。マインはそのことを聞き配慮してきましたが、こうした生活の何気ないところでもトラウマが蘇ってしまうとは……。

ですが、ヴィルマもこのままでいいとは思っていませんでした。版画に合うようもっと絵をシンプルにしたい、というマインの話を受け、自分を変えるためになにかに挑戦して努力しよう、と決意し取り組みます。

予想通り、神殿では女性を蔑ろにする神官がいたようで……ヴィルマはその恐怖にずっと苦しめられています。
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その間、マインは聖典を絵本にするために本文を書き上げ、フェルディナンドにチェックしてもらいました。しかしこれを読んだフェルディナンドは、マインの文章力や聖典の解釈が優秀すぎると疑問を持ちます。どうしてこんな能力を得たのか?どこで教育を受けたのか?とフェルディナンドはマインに問いました。マインは「夢の中で」とかなり遠回しに答えます。混乱したフェルディナンドは、考える時間が必要と言い、この話はとりあえず今回はここまで。

ヴィルマの絵も完成し、ルッツの力でガリ版の器械も完成。刷り上げてみたら、見事なクオリティで絵が写りました!新しいことに挑戦しそれが実った結果、ヴィルマの男性不信によるトラウマも少し解決したようです。

最後に姉のトゥーリに本を綴じてもらい、本が完成!マインが転生して2年、様々な困難や挫折がありましたがとうとう大好きな本を作り上げることができたのです。本を抱きしめ、マインはルッツとトゥーリに感謝しながら嬉し涙を浮かべました。

第8話はここで幕を閉じました。

勉強はなんのため?自分を守るため、そして切り開くため!

第21話、第22話の名ゼリフ・迷ゼリフ!

自衛のためにも教養は必要だ(フェルディナンド)

貴族としての教養である音楽を身に着けさせたいと考えるフェルディナンドと、そんなことは面倒くさいからやりたくないというマインの話し合いの中で出てきたのが、このセリフです。

マインは強い魔力を持っています。この世界では、魔力の釣り合いが取れない夫婦は子供が生まれにくいとされます。また、母親の魔力は子供に影響を及ぼすとも。となると、魔力の強いマインに複数の貴族から結婚を申し込まれる可能性は高い。

まるで貴族のように振る舞っていたロジーナ。貴族の教養である音楽が上手いということは、ある意味貴族に近づくことでもるあのかもしれません。
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フェルディナンドはその際に、単に選ばれる側になるのではなく選べる側になるためには武器が必要だと考えているのです。そこで出てくるのが教養である音楽。教養に秀でた人物は一目置かれ、邪険に扱われる可能性が低くなる。

教養という武器をつけて貴族と対等に渡り歩けるようフェルディナンド。親心を感じます。ベンノもそうですが、マインのことを成長させよう、不利な立場にしないようにしようと頑張ってくれる大人が周りにいるマインは幸せものですね。本人は少しウザがってますが(笑)親の心子知らず、ということでしょうか。

私はクリスティーネ様ではないのです(マイン)

前の主、クリスティーネの元で甘やかされて暮らしてきたロジーナ。マインのもとでもその待遇が当然続くと思っていたものの、フランたちはいい顔をしていません。マインはこのセリフを毅然と言い放ち、ロジーナに考え方を変えるよう迫りました。

神殿に来た当初は側仕えとの距離感を掴みかねていたマインですが、意識を変え、アメとムチを上手く使ってフランたちの信用を得てからはかなりいい感じになってきています。もう立派な上司ですね(笑)

皆が参加する会議を開催し、その中でズバッとロジーナに考え方を変えるよう迫ったマイン。ギルたちのガス抜きをしつつ、数を味方につける効果もあって会議は成功!
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特筆するべきは彼女の処遇について、側仕え全員(正確にはヴィルマはいませんでしたが)を参加させ会議を開催したことです。この世界では貴族と平民には絶対的な権限の差があり、神殿ではそれが随所に見えます。なので話し合いなど持たず、マインがその権限でロジーナの処遇を決定するほうがおそらく一般的でしょう。ですが会議という全員が納得する(可能性の高い)方法を取ったのは、転生したマインだからこそできる考え方でしょう。

しかし……フェルディナンドはロジーナの態度について否定的な見解を示し、言うことを聞かねば交代もと発言しています。マインの考える方向性と一致していたからよかったものの、もし「ロジーナは変えない、なんとかしろ」と言われるとマインとしてはロジーナに対し交代というカードを使えず、かなり苦しいものがありました。そして現実世界ではこういう状況のほうがありがち……宮仕えは辛いよ、トホホ。

別の言葉で教育を受けてきた他国の者のようではないか(フェルディナンド)

マインの書いた聖典絵本の文章があまりにも素晴らしかったため、違和感を持ったフェルディナンドがマインを呼び出した際に発したセリフです。

これは2つの大きな意味があります。まずフェルディナンドがマインの高すぎる能力に疑問を持ち、出自が別の国なのではないか、と疑ったこと。これ、第1部の同じぐらいのタイミングでルッツも同じ疑問を呈しましたね。ルッツは知識という観点から疑問を持ったのですが、フェルディナンドは教育という観点からそこに疑問を持ちました。視点が彼らしいですね。

マインは他国出身?麗乃として過ごした現代日本は、確かにこの国から見れば完全なる異国。そこに気づいたフェルディナンド、さすがです。
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もう1つ注目したいのは、「他国」という言葉を使っていることです。ここまで物語は完全に町の中に閉じて展開してきました。他の町や中央政界のある首都の話はわずかに聞こえてきましたが、そこまでです。しかしフェルディナンドの言葉によれば、言葉が異なる他国が存在することが分かります。本作のまだ見ぬフィールドがグッと広がった一言だと言えましょう。

神殿にいる孤児たちを味方につけ、ナンバー2であるフェルディナンドも応援してくれているマイン。フェルディナンドの言葉から考察すると、マインは今後中央政界で貴族と渡り合っていく予感がします。ただその先にはさらに他国との外交という舞台も存在する可能性が……?これは話がデカくなってワクワクします!

本を片手にこの世界を変えるか?マインの大きな一歩!

今や前世は「夢物語」……マインの心中

とうとう本を作り出すことができたマイン!転生してから2年もの歳月をかけ、幾多の失敗を乗り越えた末に出来上がった本を抱きしめる姿は感動的なものがありました。よかった、よかった!

それにしてもヒヤッとしたのは、フェルディナンドがマインの高い能力について疑問を持ったシーンでした。その知識、賢さ、行動理念が他の平民と明らかに違うのはフェルディナンドも知っていたはずですが、最大のきっかけとなったのが解釈力や言葉の言い回し、教育だというのがフェルディナンドらしいですね。

さすがに転生が云々、ということまでは気が回らなかったフェルディナンドですが(むしろそこに考えが行き着いたとしたら彼もそれかよ!みたいな話になりますが)、マインがこの国の人間ではないのではという予想は的中しています。さすがですね。

今となっては現実ではない前世、そして本が好きなだけ読める夢の国……2つの意味でマインにとって前世は「夢の中」です。
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さて、そのフェルディナンドの問いかけに対しマインはこうした知識を「夢の中で得た」と回答しています。これは2つの意味があると考えます。1つは文字通り、寝ている夢。現在のマインとしての意識ではない別の意識という意味では、寝ている間の夢という言い方はフェルディナンドに対する説明としては絶妙な言い回しであると言えます。

もう1つが、楽園的な意味での夢。転生する前の麗乃は本が大好きでした。前世では、望めば本はいくらでも読める。買うのは高くても、図書館に行けば大量の本がある。ですがこの世界にはそもそも本がほとんどない。彼女がそれを苦痛に感じ、そのために本作りをしてきたのはこれまでずっと見てきた通りです。

本がいくらも読める世界。それは前世では当たり前だったけど、今となっては夢のような話……そう解釈すると「夢の中」発言はなかなか深いものに感じられますね。

本は、世界を変えうるアイテムだ

さて、とうとう本が完成しました。完成した本は子供用の聖典ですが、おそらくその珍しさから多くの人の手に渡るでしょう。そうして本が流通していくと、人々の生活、そして教育レベルが上がることが考えられます。文字を覚え、情報を入手できるようになると人々は賢くなり、生活レベルが上がる。生活に余裕が出るともっと知識を得たくなり、教育レベルが上がる。

これを恐れるのは権力者です。権力者が庶民を支配する際、一番簡単なのは情報の格差を利用することです。この世界ですと貴族と平民の情報量は圧倒的な差があります。その構造を元に社会システムを作り、結果として身分の逆転が起こらない。

自分が好きな本を読むため、回り道をしつつも前に進んできたマイン。彼女が生み出したアイテムは、剣や槍よりも強い武具となって世界を革命するかもしれません。
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ですが、庶民が広く情報を手に入れるようになると「この社会おかしくね?」「神殿が偉いって誰が決めたの?」みたいなことを考えるようになっていきます。圧倒的大多数の庶民がそうなると、少数派の貴族は地位が危ぶまれる。貴族にとって庶民の知識水準が上がることは歓迎できることではないのです。

本作りという大変めずらしいことをやってのけたマイン。彼女を慕い、彼女のために行動する人間は日に日に増えています。その動きを、貴族代表である神殿長が完全に察知するのはそう遠いことではないでしょう。その際、どんな手を使って嫌がらせをしてくるのか?そしてマインはそれをどう跳ね返していくのか?ここに注目したいと思います。

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