「ID: INVADED イド:インヴェイデッド」 3話 感想 ~ 人間の抱える自己欺瞞に、あなたはどう答える?

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本格サスペンスミステリーの本作、今回も相当にヘビーな展開の連続でした……!
見る者を試すかのような本作、引き続き食らいつくように見ていきたいと思います!

※アイキャッチ画像ならびに本文中の画像は、 ©ID:INVADED Society様公式HPより引用しています。

幸せだった過去……秋人が抱える悪夢

娘は殺人事件で変わり果てた姿に……

秋人はあるマンションの前に佇んでいます。
そしてそれがすぐに回想シーンであることが分かります。秋人自身もそれを把握していました。
なぜならそこには、すでに亡い秋人の妻と娘である椋がいたからです

幸せだった頃の秋人。今の彼を知る我々からするとあまりにも辛い笑顔です。
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秋人はこの夢・回想が真実と異なることをすぐに把握しました。自分は忙しすぎて家族を顧みていなかったから、こんな団らんはなかったと。
そして次の瞬間、幸せだったはずのマンションは殺戮の場面へと変わります。
眠るように息絶えている椋。しかしそれも真実と違うと秋人は冷静に振り返ります。なぜなら椋は内蔵や脳を破壊されるという酷い殺され方をしたと知っているから……秋人はここで、独房で目を覚まします。のめり込んで見ていると、彼の苦しみがこちらにも伝わってくるようなシーンでした。

なお、このシーンで、秋人がかつて警察の殺人課に所属しており、手柄を挙げていたということが分かります。
ちなみに現実の警察に、殺人課という部署は存在しません。殺人事件を扱うのは各都道府県警の捜査第一課、警察署ですと場所によりますが刑事課強行犯係という名前のことが多いです。

秋人と松岡、そして本堂町。

CM後、いきなり高層ビルが爆破されるシーンに移ります。これまた強烈なスタート……!
しかもこの爆破の横で、花火がきれいに上がるという異様なコントラスト。今回のターゲット、コードネーム「花火師」の犯行でした。それにしても高層ビルでのテロとは、またまた凄まじい舞台の大きさです。

そのニュースを病床のタブレット端末で眺める本堂町。第2話でアナアキこと富久田保津に抵抗し、頭に穴が空いていくはずですが、とりあえず元気なようです。いや~、ホッとするシーンでした。

しかしこのシーン、重要な話が次々と出てきます
松岡は秋人とかつて同僚だったこと。
しかし松岡は秋人のことを好きではなかったこと。
今の本堂町がかつての秋人に似ているとも。

イドに興味を持つ本堂町。それは地獄の入口、なのかもしれません。
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また、イドに入る能力があったとしても自分自身のイドに入ることは禁止されていると彼は言います。イドに入ると記憶が失われるのは、自分のイドに入った際にドグマに堕ちる(ここでは自分の精神世界で永久にさまようことを意味すると思われます)ことを防ぐためだという見解を示す松岡。この後のシーンで、ミズハノメは関係者でもまだ分かっていない事が多いとされるだけに、松岡の見解も正しいかどうかは分かりません。

そんな松岡の話を聞く本堂町……イドに入る能力を羨ましがったり、自分のイドに秋人が入ったことに興味を持ったりと、かわいい顔をしていますが、一筋縄では行かなそうなキャラクターです。彼女が名探偵としてイドに飛び込むような展開はあるのでしょうか?

地獄のような犯人のイド。そこには人間が抱える負の感情が

花火師のイドに突入!そこは地獄そのものだった

花火師の捜査は、彼の残留思念が犯行現場に残っていたことで進展します。
花火師のイドを構築がされ、そこに投入される秋人。
そこは塔の上でした。
周りは一面の滝。そして塔の上には数十人がいます。井戸端の解析では70人から80人ほど、実在の人物ではないようです。
そしてその数十人が、滝に潜む狙撃手によって次々に撃たれ虐殺されていく。塔の上は人々の悲鳴であふれる地獄絵図と化します。

花火師のイドで、いの一番に狙撃されるかえるちゃん。名探偵・酒井戸の出番だ!
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そしてそこにはやはり、かえるちゃんが。イドに投入され酒井戸になった秋人は、かえるちゃんが一番最初に狙撃されるところを見て、例によって自分が名探偵でかえるちゃんの死の謎(=イドの持ち主である花火師のこと)を推理しようと試みます。
しかし秋人も、違和感を感じ何かを掴みそうになりながらも、狙撃手に撃たれてしまいます。百貴は排出と秋人投入を指示します。撃たれて排出⇒再投入の繰り返し……この2人の関係については今回進展がありませんでしたが、やってる方も命じる方も、そして見ている方もかなりキツい展開です。

そして数度目の投入で、酒井戸はいくつかの情報を掴みます。
塔から身投げした人物の場所を考えると、この塔は回転していると。
そしてかえるちゃんは撃たれた方向を指差していることも

そこまでは分かったものの、狙撃手による虐殺は続きます。うずくまり考え続ける秋人。そこにほふく前進で逃げ惑う1人の男。しかしこの男、何かがおかしい。倒れた他人を見て笑顔を浮かべています……!
そこで酒井戸は気づきました。この男が、違和感の正体……そして真犯人だと!

政治からの蔵に対する介入を冷静に避けようとする百貴。官僚としても優秀なようですが、その判断基準は今後軋轢を生みそうな予感。
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同時に井戸端の百貴たちも、この男が花火師だと確信します。
彼は4年前の中東の爆破テロの中にカメラマンとして現場にいました。それを再現するために爆破テロを自ら起こす……あまりにも狂った思考。一体何を考えているのか?

花火師を確保した松岡は、フリーカメラマンに偽装し、自らが起こした犯行現場で彼が撮影した写真を見つめます。
そこには、花火師が起こしたテロを撮影する大衆の姿がありました。

人間は空っぽで無価値だと言う花火師。でも秋人はその欺瞞を突き刺す

確保され、独房にぶち込まれた花火師と対話する秋人。
花火師は言います。この世界の人間は精神が空っぽで、他人への想像力が欠如した、殺される前から死んでいるような連中だと。そんな連中の生き死にに価値などない、自分はそれを露わにするために犯行に及んだと。

しかし秋人はそれが欺瞞に過ぎないことを指摘します。お前にとっての死は大量死、虐殺死だと。それは4年前、彼が中東の爆破テロ事件の現場で感じた美意識≒トラウマを深くえぐる一言でした。お前は、地獄の美しさに心をうたれていたんだろう、他人が死ぬ姿を自分だけは生きて眺めたいだけだと指摘する秋人。

図星だった花火師は異常な男ですが、それを動揺せずに指摘し、自死しようとする花火師を冷徹に見つめる秋人も相当に狂っているとしか思えないシーンです

自分を否定するかのような夢を見る秋人……それでも明日はやってくる

そんな彼は、また夢を見ます。花火師のイドの中で狙撃されるかえるちゃん。彼女を抱きしめる酒井戸=秋人。しかしその酒井戸にかえるちゃんは冷徹に言い放ちます。事件の捜査なんてどうでもよくて、自分と話したかったんだよね、と。そしてかえるちゃんは、椋に姿を変えて言います。そんなどうでもいい仕事なら、どうして死ぬ前に私たちのそばにいてくれなかったの、と。

目に涙をためて悪夢から起き上がる秋人。一体彼は何度この夢を見たのでしょう。精神をえぐられているはず。なのにすぐに平静に戻る秋人。そして彼は椋の写真を見ながらつぶやきます。

「かえるちゃんは椋じゃない」と。

自分と他者、そこに横たわる無意識の自己欺瞞が問われた

ストレスフリーなストーリーに対するアンチテーゼ?

またしても、非常に重たい話が続いた第3話でした

近年のアニメのストーリーは、ストレスを感じさせないために安易なチート感満載で進んでいく傾向にあります。
しかしそれに対するアンチテーゼなのか、それとは真逆の方向……ストレス全開なストーリーに振っていく選択肢を選ぶ作品もあります。本作はまさにそういう作品。目を背けたくなるようなシーンも多々あり、今の地上波の限界に迫っているような気もしますが、それだからこそ強いメッセージを発しているように思います。

花火師の言葉を、我々は簡単に否定できるのか?

今回の犯人、花火師の言葉は非常に重たいものでした。
彼自身は、自分が遭遇した爆破テロにより歪んだ快楽に目覚めます。彼自身の狂気は間違いなく異常であり、そこに議論の余地はありません。

しかし彼の「自分は生き延びた上で他人の死を眺めたい」という思考……これは形を変えて我々を突き刺すメッセージではないでしょうか。よく言いますよね?「他人の不幸は蜜の味」と。人間は、自分が良ければそれでいい。むしろ他人が自分より苦しい思いをしているところを見て優越感に浸りたい。誰しもが、程度の差こそあれそう思っている……そう、作中ではスマホ片手に大事件を撮影する大衆のように。宗教などに没頭し自分を超えた何かを体得しない限り、これを否定するのは相当に難しいことです。

そしてその思考の裏には、自分が特別なものであるという思いがどこかにあります。花火師がまさにそうだったように。
でも自分では自分は特別だと思っていても、他者(花火師に対する秋人のように)から見れば、そんな自分も他人にとってはどうでもよく、貶める対象でしかない……花火師が指摘するように、我々は他人に対する想像力をどれほど持っているのでしょうか?

他者を残酷なまでに冷徹に眺める秋人=酒井戸。しかし無意識の内に女性を助けたこのシーンを見ると、彼がそれだけの人物ではないようにも思えます。
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自分から見た他人。他人から見られる自分。
両者の間には、深く考えなければ気づかないようなところで、そうした非道な考えや矛盾が心の底に眠っている。しかし人々はそれに対して自分自身をごまかし、自己を欺瞞することでやり過ごしていると、この第3話は指摘しているように思います。そう考えると深く考えてしまうテーマです。

第1話、第2話のアナアキもそうでしたが、この作品に出てくる殺人犯は、人間や大衆の何かに疑問を感じ、問いかけるように犯行に及んでいます。そしてそれは、脚本担当でミステリー作家である舞城王太郎先生による我々に対する問いかけなのかもしれません。

第4話以降もこうした問いかけを、かなりキツい描写で投げかけてくることでしょう
見ているあなたは、そして私はそれにどう答えるのか?
それが問われているような作品ではないかと思います。

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